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千夜一夜の夢の続き
◇千夜待ったら君をさらうよ
寝物語を聞くのは好きだ。面白おかしく話してくれるわけではないし、興味のある学問の話ではないけれど、彼が楽しそうだからそれでいいと思っている。ごくたまに愚痴っぽいことをこぼすこともあるけれど、基本、弱音は吐かない人間だ。本音と居所の悪い虫を吐きだして、満足したようにため息をついて、それから再び話しはじめる。ベッドヘッドの枕を胸に抱きながら、淡々と紡がれる言の葉を拾い集めて、眠りに誘われていく。すっと耳なじみのあるテノールは、ここ最近の子守歌のようだ。「……マルコ」落ちかけるまぶたの先で、愛しい人(モナムール)の顔をうかがい見る。夜闇のなか、月光に照らされた星空がただひとり、自分だけを映していた。「千夜すぎたら、君をさらってもいいかい」ぱちくり。何度かまばたきを繰り返した彼は、こちらの言わんとする意図をくみとってか吐息で笑う。「それまで、おまえの望むシェヘラザードでいるとしよう」
◇星の夢を見るひと
「先輩も星が好きなんですか?」とことこと駆け足で近寄ってきた少年に、レグルスは人の良い笑みを浮かべて答えた。「好きだよ。昔から星という存在が近くにあったからかもしれないけれど……なんていうんだろう。無意識のうちに見あげていたりするんだよね」頬をかいてプロジェクターを触れば、ひょこっと隣に立ち、手元の作業をじっと見やる。そうやって無遠慮に見られることは好きではないのだけれど、彼の前ではあくまでも「心やさしい先輩」でいなくてはならない。面倒くさいことこのうえないが、そうした猫かぶりは体裁を保つ手段だ。「セオドア、君はどの季節の星がみたいのかな」特別に、映してあげるよ。
◇ふたりの戴冠式
人差し指で突いただけ。それだけでいともたやすく転がったそれをみて、なんて無意味で無価値なものなのだろうとは思った。「おーうさまー!」枕もとでやけに元気な男の声がする。揺さぶられ、うっすら目をあけると血潮の瞳とかちあった。交えた視線ににっこりと笑んだ男は、腕を引っ張り、無理やりに起こしてくる。「んん……なんだ、ノア」「王様、戴冠式って明日?」はたして明日と言っていいのかわからないが、日が昇ったらそうだなとうなずく。すると、そっかあとわくわくした様子とともに、お願いがあるんだけどと続けられた。「お願い?」「そう! 戴冠式って、大臣とかいう偉い人が王様に王冠を載せる儀式なんだよな?」「まあ、そうだな」「堅苦しい式だよな?」「言っておくが、おまえも出席するんだぞ」「はーい、わかってますって」うんざりといった具合に肩をすくめたものの、すぐにぱっと顔を輝かせ、お願いと再度繰り返す。「俺もやりたいの、王様に王冠載せるやつ。契約上、俺って王族の血しか吸えないからさ。王様が王様になった証として、俺も載せたいな~って」やるとしたら夜で。聞き飽きた最後の文句を耳にして、クロヴィスは声を押し殺して笑った。もちろんだ、ふたりだけで王族と契約に縛られる吸血鬼の戴冠の儀式をはじめよう。
お題は淡野かづき様より。
きえないでほしいと願った。その手のひらのぬくもりだけは。
あたたかい、なにものにも代えがたいそのやさしさだけは。

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箱庭にて、幻聴の少年は悦い声で啼く。
耳障りなさえずりだった。

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黒紅の誘惑、朽葉の虚偽
 好きになった子がタイプかな。我ながら、自分の発言に嘲笑した。幾人にも同じことを聞かれ、同じことを返してきた。オーソドックスで敵をつくらない、ずるい返答だ。そう答えれば、余計な詮索をされないで済む。ひとをまともに愛せない異常者の、世の中とうまく付き合っていくための処世術ともいえる。
 色香をただよわせ、身を乗りだしてくる少女と視線をあわせた。こういうのを、俗に「あざとい」というのだろう。自分が変わった性癖の持ち主だから客観的に、冷静な理性で見ることができているけれど、まともな男だったら一瞬で陥落してしまうに違いない。あざといとわかっているのに、落ちてしまう。男の悲しい性だ。
 床に手をつき、乗りだしてきたことで女性的な身体のラインが強調される。露出は控えているものの、座っていればさほど意味のないそれに、真也は小さく笑う。上手に受けとめて咀嚼する術を、自分は知らない。このみずみずしい果実にかぶりつくだけの欲がないことが、こんなにも惜しいと思うなんて。
「ガード固いなあ……」
 ええーっ、と不満そうな声をあげてから、ぽつりつぶやく。聞こえないわけではない、しかしはっきり聞こえるわけでもない絶妙な大きさ。これもまた、慣れているのかもしれない。本当に器用だ。そして、自分の武器をよくわかっている。
 乗るべきか、反るべきか。どちらでも面白そうだけれど、場合によっては……と行きつく先を想像して、自分でも驚くくらい自然な笑みがこぼれる。いまの笑みはつくったものではない。それは己が誰よりも理解していることだ。同時に、そういった考えでしか心の底から笑うことができない自分に自嘲した。
 性癖については、数年前にあきらめと許容を覚えた。切っても切れないもの、受け入れるしか方法がないもの。精神病も疑ったけれど、はたして治ることなのか考えても答えが出なくて。結果、性癖も桐生真也の一部にして、楽しく生きることを選んだのだ。後悔をしたことはそれ以来ないけれど、ごくたまにまともでいたかったと思わなくもない。――もう、叶わない夢物語。
「それじゃあ、あたしのことは、どうですか?」
 こてん、と小首がかしげられて、なんと愛らしいことか。口元にえがいた微笑みを絶やさず、そうだなあと考えるそぶりをしてみせる。
「……僕にはもったいないかな?」
 こんなに素敵なのに、僕が摘みとってしまうのは許されない気がするんだよ。
 サワーのグラスに手をそえながら、まなじりをさげて儚げに笑う。君は美しいと、全身で叫ぶ。艶やかな黒紅に耳元から指をすべらせ、誘うようにゆっくりと。
「悪い男だからね、僕は。……いい子は、引っかかってはいけないよ」
 指先で頬をなぞる。グラスによって冷えられた手をくちびるに寄せて、しい、と片目をつむった。
Twitter創作うちよそ「それが僕らの愛だから」より。前:朽ちゆくきみを求めて、夜闇は這う
彦星がほしをのみこんだあるひ
あまくて、しょっぱくて、なつかしい味だった。

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ようこそお越しくださいました (06/07)

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空野海

Author:空野海
since:2009.3.21
生誕:2月14日

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