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箱庭にて、幻聴の少年は悦い声で啼く。
耳障りなさえずりだった。
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◇箱庭にて、少年はひとり啼いた。
 いつからそうだったのかは覚えていない。気づいたらそうだった。脳髄に直接響いてくるさまざまな声、それはきちんと言葉になっているものもあれば、効果音のように明確な意味をもっていないものもある。意味のある言葉を、意味のない音がかき消したりなんて日常だった。
 苦しい、つらい。言うことは簡単だ。口にするだけでいいのだから。けれどそれができなかったのは、自分の置かれた立場が曖昧で、不安定だったからなのかもしれない。傍からみれば自分は八人兄弟の末っ子で、ひとつ上の兄以外は母が違うなんて誰も思わないのだろう。父が同じだから、よくみたら似ているね、と言われるだけだ。
 異母兄弟の兄や姉は、かわいがってくれていると思う。微妙な気持ちを抱いているに違いないのに、まるで本当の弟みたいに扱ってくれる。母ともそれなりに仲良くしているようだし、心配する種はまずないといっていい。それでも、所詮は赤の他人なのだ。
「……バルド兄さん」
 ひとつ、歳が上の兄バルドは、熱心にキャンバスと向きあっている。背後から小さく呼びかければ、はじかれたように振り向いた。切りそろえられた長めの金髪に隠れた青玉が、爛々と光っている。いつだってこの目を向けられるとき、気味が悪いと思ってしまう。――気味が悪いのは、ぼくのほうなのに。
「やあ、サリエルじゃないか! 愛しい僕の分身よ! 機嫌はいかがかな」
「バルド兄さんの分身と言われるのは心外だよ……今日も熱心にキャンバスと向きあっているの」
「そうとも! このあざやかな色彩を表現するには、なにが一番ふさわしいのかと思ってね。まったく思いつかなくて困っているよ! 創作意欲を掻きたてる、素晴らしいモデルがいればいいのだけど」
「……そう」
 このあとに続く誘い文句がなにかを悟り、くるりと踵をかえして歩きだせば朗々と声を響かせて兄があとを追ってくる。開けようとした扉を押さえつけられ、じろりと頭半分ほど高い相手を睨めつけた。
「そんな怖い顔をしないでもいいじゃないか」
「なにを言うのかわかっているんだから……ぼくは、行かないよ」
 あそこは声が多いから。
 言いかけた言葉をのみこむ。兄でさえ知らない、ぼくの「異常」さ。強い拒絶さえもろともせず、がしっと襟首をつかまれ、じたばたと暴れてみせる。
「はっはっは! 面白いことを言うんじゃないよ、サリエル。君は離れられないんだ、あの場所から。なんだかんだ言って、君は必ずついてくる。それが答えさ」
 そんなことはない。自分は心の底から、いやだと叫んでいる。それすらうそだと真っ向から嘲笑されて、かっと頭に血がのぼった。けれど兄を振り払えなくて、力いっぱい抗議してみせる。兄や姉の名を呼んでみたけれど、どうやら助けには来てくれないようだ。
 ずるずると引きずられ、兄の部屋が遠ざかっていく。同時に近づいていく陽のあたたかさを背に感じて、ぎゅっと目をつむった。
 いやだ、いやなんだ。外に出れば出るほど、自分の異常さを痛感してしまう。
 箱庭に住まう幻聴の少年は、悲痛な声で啼いた。

◇無慈悲な一手
「ああ! これも僕の絵画にふさわしい色にはならない!」
 大げさに天をあおぎ、ひたいを押さえる兄をどこか遠くの光景を見るように眺めていた。自分の背丈よりもはるかに大きいキャンバスを前に、ぶつぶつとひとり言をつぶやきながら部屋を歩きまわっている。サリエルは隅の椅子に腰かけて、はあとため息を吐いた。
 ぐしゃり、兄の手のひらからつぶされた花の花弁が落ちていく。世にも珍しい紫の花だった。色彩も鮮やかで、すりつぶしたらとてもよい色になると喜々として語っていたのがずいぶんと昔のように思える。
 絵画に対して異常ともいえるほどの執着と熱をみせる兄は、独特の世界観とセンスをもっていた。リアルに描くことに情熱をそそぎ、少しでも自分の思い描いた色と違うとすぐさま使うことをやめてしまう。それを片づけることをしないため、アトリエと化している部屋には無数に残骸が散らばっている。
「……昨日は、傑作ができるって大喜びしていたのに」
「昨日は昨日、今日は今日さ! 実際に使ってみたら、僕の想像とは違う色だった。それだけだ。ふむ、この花はもう使えないね」
 傍らに活けてあった花を一瞥し、兄は視線を再びキャンバスへと戻す。用済みということなのだろう。サリエルは本日、二度目のため息を吐いた。
「バルド兄さんのその意欲は素晴らしいと思うよ。上の兄さんたちも一目おいている。……だけど」
 無慈悲だと思う。
 自分でも驚くほどに冷淡な声だった。コバルトブルーの瞳をまっすぐに見つめれば、くちびるを引き結んでから彼は声高に笑いだす。思わずびくりと肩を震わせた。
「サリエルはお人好しなのか無知なのか! 実に愉快だ!」
「……ぼくは不愉快だよ」
「無慈悲? いいや、これは当然の扱いだよ」
 絵筆を両手にもち、キャンバスに愛をふりまくように壮大な。
「僕は絵描きだ! 表現するために必要なことならば惜しまない! 君はそんな僕の表現を評価するんだ。それが画商だろう?」
 たまに思うことがある。自分に正しい目利きの才があったなら、兄の絵画をどう評価するのだろうと。腐った自分の目では、彼の絵も他人とは違うようにみえているのだろうから。
 画商だろう、その言葉が重くのしかかる。まだ見習いだから、と小さく言い訳をして、前髪に隠れた瞳で金に染まる世界をみた。この視界では、兄も、キャンバスの絵もすべてが金色だ。
 金色の世界は、嫌いじゃない。崩れるように椅子にもたれかかれば、ギシリと木材のきしむ音がする。ほのかなぬくもりを感じる木材の椅子に頬をすりよせ、世界から目をつむった。
サリエル・バークリーバルド・バークリーくんお借りしました。
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Author:空野海
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生誕:2月14日

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