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僕は、君に戀をしました。
ひそやかに、まことしやかに育まれる恋心でした。
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 僕は、君に戀をしました。
 出会いは父が知り合いの人からもらったといって連れて帰ってきたときだ。阿蘭陀の人と会談をしてきたといって、彼が手土産にくれたものらしい。父には彼女の魅力はわからなかったが、とても高価なものであることは察したらしく、一度は丁重に断ったのだという。しかし、彼はせっかくだからと譲らなかったので、言葉に甘えて連れてきたとのことだ。
 我が家には自分以外に子供がおらず、しかもその子供である自分は男であったために、その贈り物はふさわしくないと父は持ち帰ってから再三繰り返した。そうして数日後、彼女は父の書斎に置かれることになった。書斎は父以外の人が立ち寄らないので、不相応なものが置かれていても誰も気づかない。殺風景な書斎のなかで、彼女だけがあざやかに輝いていた。
 僕は彼女が忘れられず、父の不在中にこっそりと書斎に忍びこんだ。戸棚の上の彼女は、出会ったころと変わらない笑みで鎮座していた。藍染よりも明るく、朝のすがすがしい空色よりも濃いこの青玉は、なんという宝石なのだろう。まるで、びいどろみたいだった。
 遠い異国の地の服なのだろうか。白いひらひらした布が、裾や袖にたくさんつけられている。見たことがない服だ。不思議に思うも、彼女にはよく似合っている。少女の愛らしさとは、こういったところに垣間見えるものらしい。
 なかでも自分が目をひいたのは、彼女の頭部からたれる美しい金糸だ。蚕の糸よりも細いだろうか。絹糸のようになめらかで、指先に絡めるだけでその繊細さにため息がもれた。
 思えば、その瞬間に戀をしていたのだと思う。一目惚れ、だなんて絵空ごとだと鼻で笑っていたけれど、言い得て妙だ。これは確かに、一目惚れだった。
「おはよう」
 父の書斎に置いてあった彼女との逢瀬を重ね、父にも自分の部屋に移動させることを許可してもらい、彼女はいま自室の枕元に座っている。挨拶をし、金糸を手にとってやさしく梳く。朝陽をうけてきらめく青玉は、光をとりこんで七色に色を変えている。あまりの美しさで、朝から気分がいい。
 朝餉は自室に運んでもらうことになっている。出不精な自分のことを使用人がどう思っているかなんて知る由もないが、黙って障子の向こうにお盆が運ばれるので、自分もなにも言わないことにしていた。
「さあ、朝餉だよまりい」
 彼女の分の朝餉はない。布団をたたみ、隅から引き出した簡易机に食事をのせる。
 まりいとは、彼女の名前らしい。うなじに刻まれている文字が気になると父にこぼしたら、翌日、譲ってくれた阿蘭陀の人に聞いてきてくれたのだ。ふさわしくないと頑なに拒みつつ、父も新しいもの好きなので、気になっていることは感じていた。案の定、聞いてみたらこれだ。
 彼女と執拗にかかわったりしないものの、帰宅すると横目で見ていることを知っている。自分がことあるごとに持ち歩いているのが気に入らないのだと思っていたのだが、父も珍しいものに対しての興味があることを知ったときは安堵したものだ。
「うん、おいしい。ひとりじゃない食事は、こんなにもおいしいものなのだね」
 言葉を発さないお人形。それが、彼女のすべてだ。
 けれど、自分はそれでもいいと思っている。会話で、意思の疎通がはかれなくてもかまわない。ひとりじゃない事実、それだけが僕の真実だ。
「まりい、僕の一番の理解者でいておくれ」
 カチャン。茶碗に、漆の箸が涼やかな音をたてた。
日本男子×フランス人形。――目の醒めるような恋でした。
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Author:空野海
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