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星を下してあでやかに貴方は囁く
 軽やかにステップを踏んでいるかのようだった。蝋のような足は地をついたことで泥にまみれ、お世辞にもきれいとはいえない。馬車のなか、楕円に切り取られた窓からみえた少女の姿に目を奪われたのは、その光景が異様に映ったことも理由のひとつだろう。
 石畳の硬い道を、裸足が上下する。自分の記憶が正しければ、あの日は雨が降っていた。雨粒がこの国には珍しい黒檀の髪を彩っていて、あのままにしておくのはもったいないと自分のなかの「なにか」が疼いたことだけは確かだ。
 導かれるように少女の手をとって、連れて帰ったはいいものの、孤児として育ってきたためか、さまざまな人間としての道徳が欠けていた。教えこむのは時間がかかりそうだと乳母に笑えば、お遊びもほどほどになさいませとお叱りをいただいてしまった。
 少女は生活の一切を知らなかった。もっといえば、言葉という存在すら知らずに育っていた。そのためか、目の前でごく自然に行われる会話にすら興味をもった。音の発声はできているところをみると、教えればいつしか話すようになるのだろうと思う。幼子を相手にするのと大差ない。みて覚えるのではないか、との意見を参考に、教えては様子をみる、その繰り返しだ。
 ナイフとフォークを使って食事をすることはまだ苦手なようだ。慣れていないことに挑戦しているから、いまだにぷるぷると手が震えている。みている分には興味深く、とても愛らしい。君はかわいいね、と褒めそやしても、言葉を理解できない少女は首をかしげるのみだ。
 しかし、服を着ることは極端にいやがる素振りをする。社交界で話題のローブ・ア・ラ・フランセーズをずらり並べたときは、いままでにないほど露骨に嫌悪感をむきだしにした。コルセットの締めつけにも耐えられず、少しかかとの高い靴は履く前に投げてしまう。自分もああいった類の服は好まないうえ、着ることは一度もなかったので客観的に苦しいのだろうなというありきたりな感想しか浮かばない。
 少女の相手に疲弊していく使用人たちをみていたら、再び乳母に叱られたので自ら赴くことになった。少女と対面するのは、あの日以来、二度目のことだ。自分に頭を下げる使用人を一通りぐるりと見渡してから、立場がうえの人間だと認識したのかおとなしくなった。どうやら、空気をよむことには長けているらしく、社交界の貴族よりずっと賢い。送りだしてきた少女たちは、嫁ぎ先で上手く立ち回っていると聞く。まだあどけない少女を、じっくり染めあげていく過程。ぞわり、獣の心臓があわだった。
「会うのは二度目だね。ようこそ、ヴィルトール邸へ。自分の家だと思ってくつろぐといい」
 差し伸べた手をいぶかしげに睨んで、大きな瞳が困惑に揺らぐ。にこやかに微笑めば、戸惑いがちに握り返された。ひどく小さな、弱い手だった。
「僕はこの邸宅の主、ルイ=アルベール・ヴィルトール。そして、君を飼う主だ」
Twitter企画「鳥と鳥籠」より。お題はcapriccio様から。
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空野海

Author:空野海
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生誕:2月14日

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