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月光のかんばせ、彩ある薔薇
交わることのない逢瀬。(吸血鬼×死体愛好家少女)
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 その骸を見つけたのは、偶然だったと思わざるをえない。
 セレナは軽い足取りで洋館への道を急ぐ。予想以上に時間がかかってしまった、陽が暮れる前にかんばせを拝まなくては。変わらぬ死に顔は今日もよりいっそう輝いているのだと期待を胸に抱き、自然と駆けだしていた。
 街外れの錆びれた洋館。街人はみな、口をそろえてそう言った。管理をする人もなく、ただ退廃を重ねていく洋館は立ち入ろうなどと考えない場所だからだ。立派にたつ門も、その奥へ続く大理石も、洋館を彩っていたであろう薔薇園も、いまは朽ち果てて見るも無残な形として残っている。けれどセレナだけは、直感でなにかがあると悟っていた。
 運命の出会いの日も、密葬を終えてふらりと立ち寄った。明るければ怖いものなんてないと高をくくっていたものの、鳥の声にびくびくしたあのころがすでに懐かしい。鍵の壊れた扉を開け、そっと忍びこみ、片っ端から探検をした。昔、貴族が住んでいたというだけあって造りは豪華で、埃や蜘蛛の巣やシャンデリアが壊れてさえいなければとても絢爛豪華な洋館だったのだろうということは安易に想像できた。
 一段飛ばしで階段をのぼり、南からさしこむ光につられて歩みを進める。一歩、一歩近づいていくたびに高鳴る鼓動。このときの予感は外れがないとセレナは知っていた。
 南の部屋、二階だから光も昼間はずっとあたっている。手を扉にかざすと不自然なくらいゆっくりと開いて、しかしセレナはその不自然さに気づかなかった。それよりも、自分を虜にする存在が、そこにはあった。
 むせかえる花の匂いを、肺いっぱいに吸いこむ。このかぐわしい匂いは、仕事でもよく使われる白百合だ。白百合の意味するものを、セレナが知らないはずはない。恋焦がれて仕方のない存在が横たわっていると、高揚する気持ちを抑えられなかった。
 かみしめるように一歩ずつ、綿の靴を踏みしめる。棺からあふれんばかりの白百合の花。丸く切りとられた窓からは陽光が棺を照らしていて、完璧なワンシーンにほうと感嘆のため息をもらした。この神々しさ、間違えるはずがない。耐えられず勢いよく棺を覗きこめば、そこにはいままでに見たことがないほど麗しいかんばせの青年が眠っていた。もし彼が、はるか昔に途絶えてしまった貴族なのだとしたら、こんなにも喜ばしいことはない。
 セレナは思いきって、青年の胸元に手のひらをそえる。鼓動はない。笑みがこぼれた。口元に耳を寄せてみても、結果は同じだった。思わず踊りだしたくなってしまうほど、その骸との出会いは衝撃的だったのだ。
 おどろおどろしい薔薇園にも慣れ、階段を駆けのぼって、訪ね続けている部屋の扉を開け放つ。変わらぬ姿、変わらぬ匂い。毎日、立ち寄るたびにせわしなく時を刻む心臓は、もしかして彼に新しい気持ちで恋をしているのだろうか。
 覗きこむ。閉じられたまぶたがもちあがることはない。白百合に絡まるように伸びる艶やかな若菫、片側の髪を留めるための瑠璃紺のリボン、留め具はあざやかな金色で、陽に反射してきらめく様がうつくしい。墨色のシャツは絹だろうか、仕立てのよさがうかがえた。腹部で組まれた手は月白で、それがまたうつくしいのだとセレナはサファイアブルーの瞳を細めた。絹のズボンは汚れてすらいない。素晴らしい。
「本当に、きれい」
 つぶやく。そっと指先を伸ばして頬に触れてみる。すでに血の気を失った肌は凍えるように冷たくて、セレナの慕情を煽っていった。
 生きていたころは人々を魅了する青年だったのだろう。彼の背景など知る由もないが、セレナお得意の直感がそう告げている。しかし、この骸は誰かに教えてしまうのはもったいない。自分の、自分だけの骸でいてほしかった。
「愛してあげるね」
 私が朽ちゆくその日まで。
 うっとりと目をつむり、セレナは弧をえがいて微笑んだ。


◇◇


 その青年が目を覚ましたのは、陽が暮れたころ。組まれた指をほどき、上体を起こす。窓の外を見やると見事な満月。力がもっとも強くはたらく、よい夜だ。
 くあ、とひとつ大きなあくびをして、のっそり棺から抜けだした。白百合に巻きついていた菫の髪は引っかかることなく彼の動きにあわせ、リボンがかすかに揺れる。肩をまわし、シャツを整えたところで、彼は違和感をおぼえた。
 閉めたはずの扉があいている。ここ最近、起きると必ず遭遇する現象だ。眠る前はきちんと閉めているのに、目を覚ますと誰かが開けた痕跡がある。はじめは気のせいだと思っていたが、毎日のように続くとなると気のせいではないようだ。
 ため息をこぼす。邪魔されないと踏んで辺境な地までやってきたというのに。ひととおり身体を眺めるも、外傷はない。自分に危害さえ加えなければ文句は言うまいと、青年は洋館の地下室へ趣いた。ストックしてある血液のパックをひと袋飲みほす。ぐいっと雑にくちびるを拭えば、頬に一筋の血の跡。甘美なる食事だ。
 月光が洋館を照らしている。彼がここへ住みつくことを決めたのは、薔薇園があるからだった。昼間にはけして見ることのできない薔薇園の、本来の姿。月が照らすときこそ、薔薇は麗しく咲きほこる。
 ゆっくり、ゆっくり花びらが広がっていく。大輪の薔薇がそこかしこにあって、順にひらいていく様を見るのが青年は楽しみだった。口元が笑みをたたえる。
「きれいだ」
 はるか昔に出会った女性が、よく口にしていた言葉。自分には意味がいまだにわからないが、おそらく、ものを評するときの表現なのだろうと思っている。耳なじみのよい、すべらかな発音の単語。彼が理解していることはそれだけだった。
 一輪、手折って香りを楽しむ。満月と同じ瞳に獅子の色が宿る。
「狩りの時間だね」
 ささやき、青年は闇にまぎれていった。
(ああ、なんてうつくしいの!)
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Author:空野海
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生誕:2月14日

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