FC2ブログ
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
黒紅の交錯
 ふらりと立ち寄ったカフェで、たまたま見かけた女性。艶やかな濃い藍の黒紅をなびかせ、いらっしゃいませと涼やかな声を響かせる彼女を、純粋に愛おしいと思った。持ち前の明るさは天性のものなのか、喧騒の最中でも好感がもてた。
 何度か足を運び、知り得たものは彼女の名前と年齢。医大生だそうだ。立派だねと笑いかけたら、そんなことはないですよとありきたりな返答がなされた。いまはネイリストという美容関係の職種に携わっているものの、専門学校に通っていたころは目標などないに等しかった自分からすれば、彼女の生きかたは晴れ晴れしていると感じる。
 くるくるとよく動くものだ。頬杖をつきながら彼女を見守る――もとい、観察する。屈託のない笑顔を振りまき、オーダーに挨拶にと飛びまわるように動きまわって、それでも疲れも微塵も感じさせない。人間としては合格なのだろうなと、ぼんやり考えた。
 コップに口をつける。ひんやりと喉を潤していく感覚に酔いながら、眠ってくれないかなとつぶやいた。定員と客という立場では絶対に見られることのないその姿に恋焦がれて仕方がない。彼女はどう安らかな眠りにつくのだろう。呼吸は、仕草は、眠るうえで興奮材料となる要素を思い浮かべて、口角があがるのを手で必死に抑えこんだ。
「そういえば桐生さん」
「なあに?」
「この間、一緒にきていた弟さんなんですけど」
 見ていたことに気づいて、彼女がテーブルへ近寄ってくる。その手にはお冷が入ったポットを抱えていて、おそらくおかわりを要求していると思ったのだろう。幸いにも、欲に翻弄されていて中身はなくなっている。
 コップを相手に差しだしながら、首をかしげた。確かに、つい先日、弟を連れてここへきた。いやがる彼を無理やりといった具合に。彼女にもっと踏みこむには、と考えていたけれど、まさか彼女のほうから申し出てくるなんて。ゆるむ口元を隠せない。
「たっくんがどうかした?」
「いえ、面白そうな人だったので、また連れてきてくれないかなって」
「いいよ。引きずってでも連れてくるね」
「桐生さんって、結構、強引ですよね……」
 さらさらとコップに流れてゆく水が目の端に映る。弟を連れてくれば、この関係に進展が望めるとあらば利用しない手はないだろう。親しくなれば、彼女は眠ってくれるだろうか。その様が好みだったらいいと願わずにはいられない。
「なら、また近々、お待ちしてます」
 小さく笑って踵を返す。その背中にひらひらと手を振りながら、携帯を取りだして、弟へ短い文章をうった。距離が近づいて、自分の目の前でふたりが眠りに落ちてくれれば。これ以上の喜びはない。
 計画的に、じわじわと。目的のために。木の葉色の瞳が妖しく輝く。絹糸を指に絡め、真也はゆっくりと微笑んだ。
Twitterでのうちよそ創作:「それが僕らの愛だから」より。
Secret
(非公開コメント受付中)

更新履歴


ようこそお越しくださいました (06/07)

朽葉の優等、黒檀と黒紅の交錯 (12/09)

黒檀の疑惑、朽葉の告白 (10/20)

朽葉が堕ちる、真白の行方 (10/18)

夢を見続けるこども (09/25)

プロフィール

空野海

Author:空野海
since:2009.3.21
生誕:2月14日

創作倉庫を兼ねる個人ブログサイト。
無断転載禁止。

最新記事
最新コメント
カテゴリ
アネモネの花びら様方
リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

ブロ友なってやんよ☆

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。