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つまりまあ、好きなんですよ。
「綴くんは、泣かないの」あまりに唐突で、一瞬だけ息がとまる。団子を食べる手を休めて、どうしてと問いかければ、だってとつぶやく横顔がくしゃりと歪められた。「いつも、つらくない?」僕のこと、頼ってもいいんだよ。頼りにならないかもしれないけど。――泣いてしまう、ふとそう思った。彼はいつだって、感情の起伏が素直だ。僕とは違う、僕がとうの昔に忘れてしまったものたちを、彼は当たり前のように持っている。失ってほしくないと思う。でも同時に、壊してしまいたいとも思う。「僕はね、泣かないよ」些細なことで動揺しないって、自分に言い聞かせているんだ。「僕が泣くときは絶対この瞬間だってときが決まっているからね」そのときまで、涙はとっておくんだ。だから君は泣かないで。君の涙も、僕が喰べてあげる。

おじさまの好きなところならいくつでもあげられるわよ。言ってあげましょうか、なんて挑戦的に見あげる姪に動揺したなど口が裂けても言えるはずがない。自分磨きを欠かさない彼女は、はたして本当に小学生なのか。頭を抱える自分をよそに、少女は喜々として語る。「瑠璃もだいぶ姉さんに毒されているね……」「あら、だってお母様の娘ですもの。当然でしょ?」姉さんは教育方法を間違ったのではないか。彼女にはまだ果てしなく長い未来がある。だからこそ、手をとるわけにはいかないのだ。「瑠璃、お母様と同じなの」こてん、と首をかしげる仕草をかわいらしいと感じたら負けだ。「欲しいものは絶対に手に入れたいの」絶対よ。そっと握られた左手の、薬指のつけ根をゆっくり撫でられる。「おじさま、将来のお嫁さんの前で他人の女の指輪なんてつけるものじゃないわよ」にぶい輝きを放つシンプルなリングが彼女の瞳を反射して、青白く色を変えた。にっこりと邪気のない笑顔が、文平の脳裏にいつだって焼印を残していく。

「先生ー、先生ってばー!」「なんですかダリル様、そんな大声で呼ばずとも私はちゃんときますわよ」声を張りあげて使用人を呼ぶなんて、はしたない。お決まりの小言で叱りつければ、はーいとまったく反省のない返事が返される。いつものことだ。「ねえ、なんで先生は自分を使用人っていうの。僕の先生でしょ? なら家庭教師でいいじゃない」だめなの。きょとん、と首をかしげられれば、自然ともれてしまうため息。シェリルは使用人で、教育係なのはおまけの職業で肩書きなのだと、このお坊ちゃんは何度説明してもわかってくれないのだ。「私は使用人なの。もっといえば、ダリル様専属の使用人でもないんですのよ」私は、旦那様にお仕えしているのだから。あからさまにむすっと押し黙る少年を横目に、仕事に戻ろうと踵を返したときだ。「……違うよ」ぞわりと、身の毛がよだったのが自分でもわかる。「先生は、僕のものだよ。この僕の、ダリル・ウィリアムズのものだよ」誰のものだと思っているの。カツン、ステッキの先が硬質な大理石を突いて、軽快な音を響かせる。シェリルは、その少年が「貴族」の顔を見せるときが一番苦手だった。甘くとろける瞳が、鋭い炎を宿すときが。射抜かれると、すべてが暴かれると錯覚するその瞬間が。「ねえ、シェリル」君は、僕のものだよ。その賢い心臓に、よく刻みつけておくといい。
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