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水葬水族館
うつくしく、えいえんに、そのじかんをとめる。
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 薄暗く、どこまでも続いている回廊をひたすらに歩く。ぼんやりと光る水槽たちが見惚れるほどにきれいで、思わず立ち止まってしまう。まるでそこに生きているかのように生前の姿を保ったまま、寄贈品と呼ばれるものたちはそこにあった。
 水槽のそばに小型のプレート。寄贈品のタイトルなのか、それとも寄贈品として水槽に飾られている人物の名前なのか、判断はできないけれど。金枠で囲まれた、英字の筆記体で書かれている文字。
 自らの歩く靴音が反響していく。天井の高い水族館は呼吸すらも聞こえるようで、薄気味悪いとすら感じる。大きい柱に取りつけられたロウソクが、かすかな風に揺らぐ。
「おや、迷い人ですか」
 暗闇から溶けだすように声がする。遠慮がちに、というよりは静かな淡々とした声音。びくりと肩を震わせて振り返ると、青白い肌をした青年が立っていた。病弱そうな、身体が弱そうなイメージだ。シワの多いスーツにワイシャツ、目を覆い隠すようにのびた前髪の間から覗く赤い瞳が、こちらの心を見透かしてくるような錯覚に陥る。
「ようこそ、水葬水族館へ」
 仰々しく両手を広げ、目を細めてにんまりと笑う。奇妙だ。
 水葬水族館。その言葉だけなら聞き慣れている、普通の水族館であるはずなのに。目の前にいる男性が告げた水族館は、なにか異様さをはらんでいる。
「ここにある寄贈品は美しいでしょう。もっとも輝くその瞬間に、光を閉じこめたものたちです。苦しむことなく、安らかに眠ることができるのですよ」
 ずらりと等間隔に並ぶ寄贈品。さまざまな形の水槽、さまざまな色の水、そこに眠る人間しかり人ならざるもの。泡が浮かばないことから、呼吸はしていないことが一目でわかる。
 ぼわりと靄がかかっているように見える水槽。膝を抱えて水槽にいる少女の瞼は動かない。水中特有の重力にふわりふわりと浮き沈みを繰り返すその身体に、思わず目が惹きつけられた。
「あなたも、いかがです?」
 ここへ迷い込んだのもなにかの縁。
 少女の水槽を右の手のひらで指し示しながら、道化師のように。
「永遠に、なれますか」
 僕もこのように、美しく、永遠に姿を保ったまま。
「なれますよ」
 水葬水族館の住人は、妖しく微笑んでみせた。
 ――そうして数年が過ぎても、あのときの情景はいまだに色あせないままだった。


◇◇


「お兄様、今日はどこへお出かけですか?」
「新作のジグソーパズルを買いに行こうと思うんだ。今度はうんと難しいやつをね。凛夏も一緒にやる?」
「もちろん! 今度はどんなパズルなのかしら、すごく楽しみ!」
 十九になった初夏の候。湿気で蒸し暑くなりつつある街中を、妹とふたり歩いていく。そこの路地を曲がったら、すぐ右手にジグソーパズルのお店がある。毎月、決まった日にちに新作を置くその店はお気に入りだ。
 数年前、変わった水族館に迷い込んでからパズルに魅了されてきた。あの水族館でなにに触発されたのかは自分でも定かではないが、ここまでパズルにのめり込んだのは間違いなく水族館を見てからだ。
 いまだに忘れられない、独特の雰囲気をもつ水族館。展示されているのは寄贈品と呼ばれる、人や人ならざるものたち。不気味とすら言いようがないあの空間をきれいだと思ってしまった。この世に存在しているとは信じがたい、今でもあれは夢だったのではないかと思えてしまう、その。
 そういえば、あのとき見た少女はまだ水族館にいるのだろうか。
 わくわくと肩を弾ませながら前を歩く妹を微笑ましく思いながら、慣れ親しんだ路地を曲がったとき。
「お久しぶりです。お迎えにあがりました」
 ぞわりと、身の毛がよだった。
 路地の奥、かすかに感じる人影に足を止める。忘れるはずのない、目を細めた笑いかた。ヨーロッパの絵本によく見る、道化師のような。
「お兄様?」
 くるりと振り返る妹。どうかしたのと駆け寄ってくる彼女に、なんでもないと返答する余裕すらなかった。彼女には見えていないのだろうか。
「おや、妹さんも一緒だったのか。ちょうどいい、ふたりまとめて招待してあげよう」
 ぐにゃりと、空間が歪む。そうして見えてくる景色に、妙な懐かしさを覚えて。
 水葬された寄贈品たちが飾られる水族館。
「高城冬花、高城凛夏、君たちを美しく飾ってあげよう」
 この箱庭の水族館で、永遠に。
設定元(pixiv):水葬水族館
我が子:高城冬花 special thanks!:高城凛夏ちゃん
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Author:空野海
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生誕:2月14日

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