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社交界の薔薇
すべての始まりは、ただの挨拶から。
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 ここはグロンデール王国の首都、グランヴァール。あらゆる場所に住む貴族が集まる、年に一度の社交界シーズンはそろそろ終わりに近づいていた。
 そして、各貴族の邸宅に社交界の招待状が届く。金の判子が押された手紙。王族のみが使用を許されている、王家の証。城で開かれる豪華な舞踏会への招待状である。
「年に一度の晴れ舞台。ご令嬢にとっては花婿探し。窮屈ね、退屈だわ」
「ブロッサムお嬢様」
「わかっているわ、そういうことを言うものじゃないって言いたいんでしょう? 大丈夫よ、社交界では言ったりなんてしないから。これでもポーカーフェイスをつくることは得意なのよ」
 ふふっと笑った口元を慣れた仕草で隠す。社交界用に新調した流行りの扇子はほんのり空色に色づき、端には小ぶりの薔薇をあしらっている。ブロッサムが好む花のひとつであるが、彼女はその薔薇が咲いているところを見たことはない。
「それでは、参りましょうか。ブロッサム・ルロレットお嬢様」
「あなたにフルネームで呼ばれるのはいつぶりかしらね。ちゃんと私をエスコートするのよ。あなたは私の自慢の執事なんだから」
「御意」


◇◇


「う、わあ……!」
 一通り踊り、足も疲れてきた頃。ブロッサムは庭園にいた。
 社交界で疲れを見せることはタブー。必死で笑顔を取り繕い、外の空気でも吸おうかと大広間の窓からベランダへと足を踏み入れたところ、月明かりに照らされたこの庭園を見つけたのだ。
 あまりにきれいで、一瞬息をするのも忘れるほどに。傍にあった階段を駆け下り、月光の下、輝く大理石の上へ降り立つ。
 目の前に広がるのはあたり一面の赤い薔薇。ゆるく弧を描いてつくられているアーチにはかわいらしい桃色の薔薇が咲いていて、奥へ進んでいくと涼しげな音をたてながら流れ落ちていく噴水。聖女が聖杯を掲げている彫刻は良質の石で造ったのだろう。その噴水を囲むように、敷いてある大理石と同じ材料でベンチが設けられている。
 なにかに誘われるかのように、ブロッサムはベンチに腰かける。薔薇がこのように咲いているところを見たことがなかったブロッサムにとって、ここはまるで異次元だった。
「ひとりで庭園を見にいらしたのですか、レディ」
 ゆったりとした低い声。誰もいないと思っていたブロッサムは、びくりと肩を震わせた。
「ああ、すまない。驚かせてしまったかね。まだ音楽が鳴っているから、誰もいないと思っていたのだが」
「外の空気を吸おうと思いましたの。そうしたら素敵なガーデンが見えたから、見てみたくて。……お邪魔だったかしら?」
「いいや、見に来てもらえて私も薔薇も嬉しいよ」
 朗らかに笑う人だと、ブロッサムは思った。
 社交界に出向いているのだからおそらく貴族であることは予想できるが、誰だったか思い出せない。会ったことがないのかもしれないが、一年に一度開かれるこの場で見たことがない貴族などいただろうか。
 華美な衣装をまとい、自らの肩書きを自慢する貴族とは違った雰囲気を醸しだす貴族。薔薇を見て嬉しそうに笑う、父と同じくらいの歳の男性。
「……あの、この庭園はあなたが?」
 確かめるように問いかけると、彼は困ったように頷いた。
「普段から庭は自分で造っているのだが、こんな社交界のガーデン造りは初めてでな。貴族の皆様に気に入ってもらえるかと不安だったのだが、レディが気に入ってくれたようで私は嬉しいよ。薔薇は女性に愛でられてこそ美しいというものだ」
「私、薔薇がこういうふうに咲いているのを初めて見ましたの。いつもは刺も茎も切られたものしか飾られないから。……薔薇って、こうやって咲くのね。マカロンみたいで、素敵だわ」
 丹精込めて育てられたことがわかるガーデンは、惚れ惚れするほどに美しい。こんな素敵なガーデンなら、我が家にもほしいくらいだ。
「そうだわ、まだ名乗っていなかったわね。改めまして、ルロレット公爵家第一令嬢、ブロッサム・ルロレットと申します」
 教えられたとおり、恥をかかないように。公爵家の名に恥じないように。
 きつく締められたコルセットに動じず、無理にふくらませているパニエの違和感が見えないように、ブロッサムはドレスを裾をつまみ、優雅にお辞儀をした。相手が自分より立場の劣る人間だとしても、敬意は示さねばならない。
「……あのルロレット公爵家のご令嬢でしたか、こちらこそご挨拶が遅くなり申し訳ありませぬ」
 ルロレット公爵家は、貴族の中の貴族。王族にもゆかりの多い、格式高い家柄だ。
 そのような家の、しかも第一令嬢と話していたとあっては相手が絶句するのも当然であろう。
「私はアルバート・ロゼ・バークレイ。王からは伯爵の爵位をいただいておりますが、周りからはロゼ、と呼ばれておりますゆえ、どうぞロゼ伯爵とでもお呼びくだされ」
 貴族同士の、なんてことはない挨拶。あまりに絶景の中に佇んでいたからか、ブロッサムはドクリとはねた鼓動に動揺する。
 どこか寂しそうに、切なそうに微笑んだ表情が、胸を貫く。
ブロッサム嬢のこの前のお話はこちら
ロゼ伯爵のこの前のお話はこちら
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Author:空野海
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生誕:2月14日

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