スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
君は真昼の月のよう、誰もその儚い美しさに気づかない
お題は螺旋の見る夢様より。
... Read more ▼
 大国ルーンアリアの外れ、辺境の地と言われるカッサリア。辺境といっても砂漠に囲まれているわけでも、食物に飢えているわけでもなく、ただただ平和な地域である。住民の多くが農業に携わっており、朝早くからカッサリアの町には教会の鐘が鳴り響くのであった。
 その鐘とともに住民の一日は始まり、カッサリアの朝がくる。大音量でしばらく鳴り続けるその鐘を鳴らすのが、ルトの仕事だった。
 今年十五になったばかりのルトは同年代の中でも体が小さく、農業をするには向いていないと言われ、渋々といった具合にこの仕事を引き受けた。働かざる者食うべからず。それはルトの家だけでなく、どの家にも言えることだ。カッサリアでは働く者に年齢の制限がないため幼くとも稼ぎ手になるが、成人するまでは学業が優先と城主から言い渡されている。
 ルトも例外ではなかった。朝日が昇る前に起床し、駆け足で教会へ向かい、神に祈りを捧げてから長い塔の階段を駆けのぼる。そうして朝日が昇ったことを目で確認してから同時に鐘を鳴らすのだ。重たい鐘はルトの筋力ではびくともしないため、いつも塀にあがりジャンプして降りる反動で鐘を鳴らしている。始めたころは、よく尻もちをついていたものだ。
 その一仕事を終えて、ルトは再び階段を駆け下り学校へと向かう。学校の始まりは鳴らしてからずっと遅いため、鞄にいれてきたパンをかじりつつゆっくり歩いていく。
 そんな日々を半月ほど繰り返していたある日、ルトは学校の通り道にあるマンションの一室に女の子が座っているのを見つけた。顔ははっきりと見えないが、肩までのきらめくようなプラチナブロンドが目に入る。彼女はいつもそこに座っていて、時折物憂げに空を見あげては溜息を吐いたような仕草をするのだ。
 ルトはその女の子が、どうしても忘れられなかった。
 小さめの石を拾って、地上三階の彼女がいる一室の窓に投げる。コツンと軽やかな音とともに彼女がはっとしたように外を見、ルトを見る。気づかれたあとのことなど考えてもいなかった彼は、咄嗟に苦笑いで手を振った。
「あ、あの……」
 焦った手つきで窓を開けた彼女は、遠慮がちに声を発す。涼やかな、透き通るような声だった。
「ご、ごめん。いつもここ通ってるんだけど、君が座っているのが気になって……ちょっと話してみたくなって、石投げちゃったんだ」
 歳は自分と同じくらい。はしばみ色の瞳が、驚いたようにぱちぱちと何度か瞬いた。
「私のことが、気になる……?」
「ええと、その、ここからじゃ髪くらいしかわからないんだけど。君がときどき、空を見あげてるのを知ったから、かな。どうしてなんだろうって思って」
 そういえば、彼女はいったん窓から姿を消した。そうして少し経ってから、手に一冊の本を抱えてルトに見せる。表紙は浅葱色で、何度も読まれているからかところどころ切れているよう。
「私が大好きなお話なの」
 軽やかに、声がはねる。
「王子様との約束を守り続けてずっとずっと座っているお姫様の。でもそのお姫様を最後には王子様が迎えに来てくれて、一緒にお星さまになるのよ」
 だから私も、そんな人が来てくれたらいいのにって思っているの。
 ぎゅっと本を腕に抱えて、あまりにもきれいに切なそうに笑うから。
 僕は思わず、言葉に出していた。
「じゃあ僕が、その王子様になってあげる」
 彼女がなにを憂いているのか、僕にはわからない。だからこそ、それを知りたいと。
 言ってしまってから、自分がとんでもないことを口走ったのだと知る。自覚したら一気に体温があがって、顔がみるみる赤くなっていくのが自分でもわかった。
「や、あの、その」
「……ありがとう」
 儚い微笑みは、僕の脳裏に焼きついた。
「ねえあなた、お名前は?」
「ルト。ルト・アーウェンだよ」
女の子が大好きな絵本はこちらのお話。
Secret
(非公開コメント受付中)

更新履歴


ようこそお越しくださいました (06/07)

朽葉の優等、黒檀と黒紅の交錯 (12/09)

黒檀の疑惑、朽葉の告白 (10/20)

朽葉が堕ちる、真白の行方 (10/18)

夢を見続けるこども (09/25)

プロフィール

空野海

Author:空野海
since:2009.3.21
生誕:2月14日

創作倉庫を兼ねる個人ブログサイト。
無断転載禁止。

最新記事
最新コメント
カテゴリ
アネモネの花びら様方
リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

ブロ友なってやんよ☆

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。