スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
自由、仲間、それがすべて
それさえあれば、生きていける。
... Read more ▼
 見渡すかぎりの大海原を、どこまでも自由に駆けめぐる船があった。
 その船を世間の人々は恐れ、敬い、さまざまな感情の渦にのまれ、そうしてその船の船員たちを「海賊」と呼んでいた。
 彼らは海を渡る商船を襲って荷を奪い、自分たちの生きるための糧とする傍ら、貧しい村などに立ち寄っては奪った荷をわけて生活している。奪うという行為は許されざることであり、けれどそうでもしないと生きていけない人がいる現実。そういった人々に荷をわけることで、彼らの海賊としての評判は良し悪しにはっきりとわかれていた。
 しかし評判などあとからついてくる他人が評価するものにすぎない。なにより自由を愛する彼らにとってはどうでもよいものだった。
「今回も大量だな、船長!」
「食い物はほとんど積んでねえ船だったが、装飾品は多かったな。これならひとつ売っただけでも儲かりそうですぜ」
「その首飾りなんかは貴婦人に売れそうじゃねえか? 確か貴族の間ではルビーってものすごく需要があるから高く売れるって聞いたことが」
「そんなもんより食い物だろ。数少ない食料を調理場にいるルジャのところまで運ばなきゃならねえんだから。首を長くして待ってるぜ、あいつ」
「ああ、腹へったよなあ。どうするよ、船長」
 戦利品を品定めしつつ、和気あいあいとする船員たち。ぱっと見渡しただけでは人数がわからないほど。
 その中心に腰をかまえ、気押されるほどの威圧感を放つ男。むきだしの上半身には無数の傷痕が残っており、見ていて痛々しい。けれど鍛えあげられ均整のとれている身体は隆々と盛りあがった筋肉も相まって、誰が見ても美しい。
 彼は船員たちを双方の金の目でじっくり見渡し、そして戦利品を眺め、息を吸いこんだ。
「飯だ!」
 その一声に、船員たちから大地が揺れるかのような声があちらこちらからあがる。まってましたと奪ったばかりの食物を調理場まで運んでいく者、装飾品の仕分けをする者、担当が決まっているわけではないがそれぞれがやるべきことを率先して行う。
 そうでなければ、このレオナルド率いる海賊船への乗船は許されないのだ。
 この海賊船―――マリア・アムル号は、レオナルド・ガンディッシュが率いている、世界でも名を知られている数少ない海賊船である。そして船員たちは自ら進んで乗船してきた者もいれば、孤児だった者もいれば、奴隷だった者までいる。行き場のない人間を引き入れるのも、レオナルドは別にかまわなかった。
 というのも、もともと彼も孤児で、前の船長に拾われこの船で育ったからである。ひとりでいることのつらさを充分に理解しているから、言ってくれさえすれば許可するのだ。ただし、子供だろうと仕事はきちんとこなしてもらう。それが、この船でのルールだ。
 ちなみにマリア・アムル号の由来は、聖母マリアの愛。
 ひとりを経験してきた船員が多いこの船にはぴったりな名前と言える。
 獅子の目だと言われるほどの鋭い目つきをしたレオナルドは、装飾品を仕分けしている船員に声をかけた。
「どんなのが多い?」
「そうですねえ……どちらかというと、宝飾類よりは衣服類のほうが多いかと。どれも最先端の流行ものですぜ。宝飾類はルビーやサファイア、ダイヤモンドなんかのオーソドックスな宝石ですね。首飾りや髪飾りに加工されているものが多いようです今回は」
「宝石のみのものはないと?」
「いや、少しはありますよ。あるんですが、まあ……加工品が多いってだけです。船長、アリアさんにあげるんで?」
 にやけ顔で問いかけてくる船員を軽く小突いてから、その問いには答えず装飾品を漁る。
 パールが散りばめられた髪飾りや大きなダイヤモンドがついている首飾り。今の流行りらしい、胸元が開いたまるで娼婦のようなドレスや首元までを覆い隠す淑女らしいドレスまで多種多様だ。けれどそれらすべてに必ずといっていいほど宝石が使われていて、貴族の贅沢ぶりにレオナルドは溜息を吐いた。
 このフィルナンド王国は貧富の差が激しいことで知られている。貴族は贅をつくした優雅な暮らしを送り、農民は年中無休で働いても貧しいまま。この国は王家から腐っていると暴言を吐く者たちまでいる。
 だからこそ、このきらびやかなドレスの数々にはレオナルドも溜息をつかざるをえなかった。多少質素にしても、暮らしに影響はないだろうに。爵位と自らのプライドで生きているのが貴族だと知ってからはさらに嫌悪するようになった。
 ふと、一点に目をとめる。さほど華美ではない、けれど上質な絹でできているドレス。落ちついた色合いのサファイアブルーの地に、袖は風船のようにふっくらしていて、胸元のトップには濃い青のリボン。そしてふんわりと広がる裾は膝のあたりまでで、細かなレースが飾られている。派手ではないが、それでも手を抜かれているとは思えない一品だった。
「これなら、アリアも着てくれるだろう」
 つぶやくと同時にそのドレスを小脇に抱え、にやけたままの船員を残して、レオナルドは船長室へと真っ直ぐに向かっていった。
 昼間でも薄暗い船長室は、レオナルドがもっとも落ちつく場所だ。一人になりたいときはここにこもる。外からの声が一切入ってこないこの部屋は、考え事をするのに最適だった。
 扉を閉めると船員たちの騒々しい声がシャットダウンされ、しんと静まり返った空間になる。必要最低限のものしか置いていない殺風景な部屋の真ん中、硬いベッドの上にちょこんと座っている影が見える。
「アリア」
 レオナルドが声をかけると、アリアと呼ばれた少女はぴょこんと反応した。手を伸ばし、彼がどこにいるのか探しているらしく、レオナルドがそっと手を握ると安堵したように微笑む。
「兄様」
 小鳥の囀りのような小さくか細い声で紡ぎだされる言葉。ドレスをベッドの脇に置き、レオナルドは自らと同じ容姿をもつ少女の頭をそっと撫でた。すると安堵の微笑みが笑顔に変わり、嬉しそうに何度も兄様と呼ぶ。
 アリアは目が見えない。彼女もまた、前の船長が拾ってきた孤児だった。流行病で盲目になると、両親がその病を恐れアリアを手放したのだという。行きついた町の海岸に置き去りにされていた八歳のアリアを、レオナルドはまだ覚えている。そのときのレオナルドは十二歳になったばかりだった。
 両親の名を呼び続け、目が見えない状態で町へ戻ろうとするアリアを前の船長は船へ招き入れた。いろんなところにぶつかり、身体は傷だらけで、見るに耐えない容姿だったことをレオナルドは忘れることができない。
 驚いたのは、アリアが自分と同じ容姿だったことだ。まるで兄妹のようだと船員たちに笑われ、レオナルドは困惑したものの内心嬉しかった。それはアリアも同じだったようで、微笑んだあとに言葉を発した。そして初めて、彼女の声を聞いた。
『あなたのこと、これから、兄様って呼んでもいいですか』
 兄という存在に憧れていたんです。
 服の袖を掴んだまま、そっとつぶやかれた言葉にレオナルドは自然に頷いていた。
 以来、アリアは自分ことを「兄様」と呼ぶ。船をおりて出かけなければならないときもそう呼ぶので、船員たちは本当の兄妹のようだと笑ったものだ。レオナルドとしても妹を連れているようで楽しかったし、周りから不自然に見られないので好都合であった。
「新しい服だ。一人で着られるか?」
「大丈夫です。目は見えませんけど、自分のことは自分でできます」
 アリアは乗組員の中で唯一仕事を与えていない。その理由は船員たちも承知のうえだったし、か弱い女性に力仕事はさせられないと思っていた。けれどアリアは自分もなにかしたいとレオナルドに縋り、なにかさせてくれるまで離さないと言われてしまっては仕方がないと、彼は船の掃除を任せることにしたのだ。
 男しか乗っていない船ではどうもがさつなやつが多くて、とは、前の船長の口癖だった。アリアのおかげで船は清潔に保たれていると言ってもいい。ただ、女性なのに着飾らせてあげられないのが難点だと船員たちと話しては、戦利品の一部をアリアの所有物にすることに決めたのだ。
「兄様は、私が華美なものを好まないから、なるべく質素なものを選んでくれているんですよね。しかも、膝上の。私のことなんて気にしないでいいんですよ?」
「兄が妹を気にするのはいけないことか?」
「……いえ。いつもありがとうございます、兄様」
 ふんわりと花が咲くように微笑み、アリアはそのドレスを大切そうに抱える。
「兄様、私、夢があるんです」
 それはアリアの、口癖。
「すごく格好よくなっている兄様を見て、みんなを見て、そしてみんなが見ている世界を私も見たい」
 海賊船からみんなと同じ世界を見ることが、私の夢。
 いつか自分の目が治ることを信じて、アリアはそう遠くない未来に思いを馳せる。
いつかお前の目を治してやろう。
Secret
(非公開コメント受付中)


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

それさえあれば、生きていける。
更新履歴


ようこそお越しくださいました (06/07)

朽葉の優等、黒檀と黒紅の交錯 (12/09)

黒檀の疑惑、朽葉の告白 (10/20)

朽葉が堕ちる、真白の行方 (10/18)

夢を見続けるこども (09/25)

プロフィール

空野海

Author:空野海
since:2009.3.21
生誕:2月14日

創作倉庫を兼ねる個人ブログサイト。
無断転載禁止。

最新記事
最新コメント
カテゴリ
アネモネの花びら様方
リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

ブロ友なってやんよ☆

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。