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吸血鬼をいただいてまいりました!
霧咲ココロさんのお宅から、吸血鬼小説をいただいてきました!
別館でのつぶやきに反応してくださり、とてもユーモアあふれる作品です。
よかったつぶやいて……!
吸血鬼の魅力を再確認する世界を、ご賞味あれ!
... Read more ▼
『吸血鬼、血を吸う化け物、月のもと』


「ふむ……!」

 煌めく星に青白く光る月……。
職人によって手ずから作られたであろう色とりどりのステンドグラスは開け放たれた窓にすっぽりとおさまっていた。
 窓の隙間から入り込んだ透き通った光を一身に浴びて、嫣然と微笑む一人の男がいた。
年のころは二十代前半から半ばだろうか。若々しいきめの細かい整った顔立ちと愁いを帯びた鋭い瞳、鼻梁がすっと通った美しい輪郭、そしてどこか緩慢な動きのために老成した雰囲気を持っている。
しっぽのように少し飛び出た髪を黄色のゴムでまとめ、藍色の混ざった黒髪は月光を受け、時折銀色にきらめいた。
雪の化身のような白い肌に手に持ったグラスの中の赤い液体がよく映える。
着ているものは、紺を基調とした地味な色で統一してあるが、やや癖のある服だった。
しかし、素材は良いものを使っているのか身じろぎするとさらりと耳心地いい音が耳朶に触れる。

「…………いい出来!」

絶世の美貌を持つ男はもう一度満足げにため息を漏らした。
グラスを傾け、唇を湿らせる。

「馬鹿じゃないの?」

 唐突に、本当に驚くほど自然に、背後から声がした。
男は驚きのあまり、危うくグラスを窓の外に放り投げるところだった。
幸いすんでのところでグラスはつかんだが、グラスの中身はぽーんと空を舞った。
なぜか指は中指と薬指が折り曲げられ、その他の指はぴんと伸ばされていた。

 いつのまにか、彼の後ろには気だるげな表情をした女性が優雅に足を組んで、ゆったりと硝子のテーブルに肘をついて目を細めていた。
女性はふ、と息をつくと、男の細く繊細な手から透かしの入った固紙ををむしり取った。
それも彼女の白魚のような指からは考えられないほどの力で。

「なっ、なんでー!?」
「まんますぎ、面白みがない、印象がうすい、内容の薄い、中身のない、ワンパターン、月並み、陳腐、気がきかない、なんかスカスカ、もっと捻れ、つまんない、論外、茶くらい出せ」

 女性はこの家の近所に住む貴族の娘であった。
年は二十前半、化粧をすればそれによって十代にも二十代後半にも見える絶妙な年頃だ。
光の加減によって青とも紫とも取れる輝きを持つ虹彩。
纏うのは鮮やかな萌葱色の地に金糸や銀糸があしらわれ、白や黄色を散らした縫い取り。
背の中ほどで結ったキラキラと輝くようなブロンド。無造作に耳にかけられた髪がほっそりとした顎をなぞる。
悠然と泰然とした空気をまとう彼女はしかし、背をぴんと張っている。
そして、女性にしては少し吊り上った目元が向ける男への視線は、媚びなど一切なくどこか子供っぽく純粋に面白がるように、透明な美しさを含んでいた。
だが、口から飛び出してくる言葉は、視線が語るものとは違い、辛辣で不機嫌そうなものだった。

「あれ? そーいやマリちゃんなんでいるのさ」
「あんたの紅茶飲みたいから」
「もぉ。はいはい、今淹れてくるよ。待ってて」

口調は怒っているが、穏やかに流しカップの入っている棚に向かおうとした。
理不尽な要求を読み取って先回りする――長年の慣れがなせる技だろう。

「あと、姉上と義兄上が今度来るんだって。そのとき寄るからヨルに言っといてって」

 彼女には兄と姉と姉の格好をした兄が一人ずついるが、年が離れているため前者ふたりはすでに結婚している。
一番上の姉の格好をした兄は相続権を放棄し、二番目の兄がもうすぐ家を継ぐ。
姉は時々面白がって、気の弱い夫をこの城に連れてくる。
最初に来たときは、見えない城に恐怖しカラカラ笑う姉の後ろにくっついて歩いてきたところを姉と示し合わせていた男が現れた瞬間、彼は泣きながら悲鳴を上げながら目を見開きながら白目になりながら立ったまま気絶した。
しかし今では良き友人として、男と酒を交し合うこともある。
そこに行きつくまでに、数々の悲鳴とどう見ても喜劇にしか見えない彼女の夫にしてみれば悲劇でしかない出来事も多々あったのだが、

それはまた別の話。

かちゃ、という音も立てずテーブルに置いたふたつのアンティーク・カップに明るいブラウンのお茶とジャムを適量入れる。
そこで、女性はその手際に内心感嘆していたが、それを表情に出すことなく当たり前であるという顔で取っ手に指をひっかけた。

「てかなにそれ、今都で流行ってるっていうヤツ?」
「あ、わかる?」

男は気づいて訊いてくれたことがよほど嬉しかったのか、美しい顔を全開の笑顔でくしゃくしゃにした。
それを聞いた彼女は再びため息をつき、ゼラチンのように柔らかそうな唇を開いた。

「ばーか」
「疑問形ですらなくなった!?」

彼女の本気の呆れ顔だった。

「それに、あんたの場合【吸血鬼、血を吐く馬鹿者、ヒキニート】でしょう」
「ひどいよマリちゃん!!体弱いんだからしょうがないじゃん!」
「外で遊ばないからよ」
「すっごい忙しいの!仕事で! それに俺が昼苦手だって知ってるくせに」
「あんたは出られるのに出ないただの物ぐさでしょうが」

男が子供のように頬をぷっくりとふくらませると、神が与えたもうた世にも稀なかんばせが非常に残念なことになっている。
女性はそれをむっとした顔で見つめた。
再び口を開こうとしたとき、どこからともなく、ちりーんと高い澄んだ鈴の音が聞こえた。
思わずその方向を見ると、そこにはいつからいたのかもう一人男が立っている。
男はゆっくりと顔を上げ、ふたりの顔を見回した。
そしてふいに片頬でふっと笑うと、さっきとは打って変わってぬめりとした妖艶な月明かりが彼の顔を照らした。
その顔は、この城の主に酷く似ていた。そうしているうちに、口が真ん中から割れた。

「お久しゅうございます、ヨルムンド兄上、愛しのマリアンヌ」

その声はめっとりと絡みつくように耳に残る、色っぽい妖美なものだった。
それに答えたのは、さっきの明るい声とはまったく正反対の、朗々と響く冷たい冷徹な声。
城主――ヨルムンドが発したのは、その美貌にそぐうような麗しい発音だった。

「久しいな、ガルシニア。何をしにきた」

その目には、はっきりとした拒絶と疑りの光がありありと含まれている。
それに対して拒否られてしまった弟は、軽く肩をすくめ何でもないように返した。

「何って、ただ少し寄らせていただいただけですよ。ムーン兄上、かわいい弟が遊びに来たんですから、そうピリピリなさらなくても」
「キャメリア女史はお元気か」
「なんですか?あてつけですか?キャメリアが見逃したすきに俺が脱走したとでも思ってるんですか?」

ヨルムンドが黙り込めば、弟は愉悦に浸るように目を細めた。
そして、隣にいる女性の瞳ををねっとりとした視線で見つめる。

「よぉ、マリアンヌ。美しく育ったな。ご機嫌いかがかな、レディ」
「ん、久しぶりねガティ。あんたはガタイがでかくなったわね。悪くはないかな、良くもないけど」

マリアンヌは軽く手を上げると、たいして気もなさそうに紅茶を一口すすった。
ガティと呼ばれたガルシニアはにこっと笑って、マリアンヌの肩を抱く。

「なぁマリアンヌ、今度は家に来ないか。可愛がってやるぞ?」

耳元でささやかれた睦言は甘く、世のほとんどの女性がうっとりしてしまうであろうほど魅力的に紡がれた。

「やーよ、あんたっち遠いじゃない。行くの面倒」

が、マリアンヌはばっさりとそれを一刀両断した。
ガルシニアは肩を抱いたままそれでも食い下がる。とても楽しそうな笑みを浮かべて。

「別にいいじゃないか、暇なんだろう? たまにはムーン兄上以外とも遊ぶこともいいと思うが」
「なにいってんの。私は紅茶のみに来てるだけだし」
「またまた、そんな嘘つかなくても」
「馬鹿ねェ、そんな甲斐性この男にあるわけないでしょう? それにねガティ、しつこい男は嫌われるのよ?」
「別に俺はそれくらい…」
「ガルシニア、」

だしぬけに、ヨルムンドがガルシニアを呼んだ。
聡明な弟はそれだけで、兄が次に何を言うのかが予想できた。

「はいはい、ムーン兄上、悪うごさんした。わかってますとも、『マリアを怒らせるなよ』でしょ?」

兄の声を聞いたとたん、ガルシニアはマリアンヌからぱっと手を放し冷笑するように微笑んだ。
しかし、その予想はまったく覆されることとなった。

「残念だが、違う」

ヨルムンドはやおらマリアンヌを引き寄せると、白い首筋に鋭利な歯を当て、一気に突き刺した。
突然訪れた鋭い痛みにマリアンヌは眉を歪めたが、悲鳴を上げかけた唇を結んで代わりに大きく息を吐き出す。
じわりと滲んだ血をヨルムンドはゆるゆると丹念に舐めあげる。リップ音とたてて一度唇を離すと、にちゃっと首から透明な糸がつたった。
思わず悲鳴とも嬌声ともつかない声を上げたマリアンヌに、ヨルムンドは欲情しているような色香につつまれた艶めかしい流し目で彼女に笑みを見せると、もう一度同じ場所に口づけた。
流れ出る血を一滴でも残さぬよう、しなやかな指は逃がさないとでもいうかのように彼女の髪を撫で上げ、時折見える地の色と血で真っ赤に染まった舌がぬらぬらと細い首に丁寧に生々しく優しげに滑り舐めずった。
ぴちゃ……、くちゅ…ごくり……、ちゅ、ぐちゅり
小さく響く音に耐えきれなかったのか、マリアンヌはまた声を上げた。
人間には塩辛く生臭く鉄の錆びたにおいしか感じられないその液体も、吸血鬼にとっては甘美な甘みと蕩けるような舌触り、食欲をそそるようなスパイシー香りを備えた極上の食事だった。
口に含むと何とも言えない幸福感が、腹を満たす。
筋を舐めた舌は、傷口をなぞって熱くなった場所を犯した。
最後にぺろりと唇の端を舐めると、ヨルムンドは夕闇を思わせる透き通った声で警告した。

「これは私のものだ。我が所有物(マリア)に手を出したら貴様と言えど八つ裂きにして地獄岳に捨てるぞ」
「………………。ふーん、本気なんだか冗談なんだか。ま、ムーン兄上が飽きるまでしばらく待つとしますか」

楽しそうに、だが呆れたように肩をすくめると、マントをさばいてガルシニアはくるりと背を向けた。
まったく卑猥で鈍感で天然で真面目っこな兄上を持つと苦労する、とかなんとかブツブツ言いながら、頭の後ろに組んで、来た時とは違い普通に正面玄関から帰って行った。
なんだか急に馬鹿馬鹿しくなったのだ。

 ガルシニアが嵐のように訪れ去った後、ヨルムンドは肩からほっと力を抜き、恐る恐る後ろを振り返った。
そこには般若のマリアンヌが立っていた。
 瞬間、大の男が宙を舞い、一回転してそのまま頭とひざを折り曲げ、手の平を地についた!

「ごめん!ごめんねマリちゃん! あ!違うの!別に君は俺のモノなんじゃなくて!ただあの時はガティにこのままじゃ連れてかれちゃうと思って必死で!あ、あ、ごめんごめんなさい申し訳ありませんすみません本当に申し訳ございませんでしたなんでもするからぶたないでぇぇぇええ!」
「殴る☆」

襟をつかみ、大きく振りかぶった手にビクッと震えてヨルムンドは動かなくなる。
しかし、いつまでたっても衝撃が来ず、おっかなびっくり目を開けてみると、
息がかかるほどの距離に顔が近づけられ、その造作の端正さに、男は思わず息を呑んだ。

「ばか」

マリアンヌは一言だけつぶやいて、目の前の相手をとにかくぼっこぼこにした。
この男の良いところは回復力が尋常ではないところである、と彼女は評価している。
思いの限り、ヨルムンドをめっためたにしたマリアンヌは、すっかり冷めてしまった紅茶の最後の一滴をぐいっと喉の奥へ流し込み、満足げにうなずいて、足取りも軽く帰っていった。


「やっと気付いたのかと思ったのに……?」


そして、殴られてる途中マリアンヌが無意識に発した言葉に首をひねる、ぐっちゃぐちゃにされ身動きもとれないほど疲弊したヨルムンドだけが残された。




月明かりは、まだ優しくはない。


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「で、どうだったのよ」
「あぁ?別にこれといったことはない。ああムーン兄上はいつもの通り無自覚にやきもち焼いて普通に卑猥だったが」
「もう、そういうこといってんじゃないの。進展あったの?」
「まったくまったくぜーんぜん、煽っても煽ってもききゃしない」
「じゃああんたはワイン被りにいっただけなのね?」
「おい、幻術で見えないようにしてあるんだが」
「効く訳無いでしょ、わたくしに。わが妹は奥手すぎるし、あなたんとこの兄は自分の気持ちでさえ気付きゃしないおバカなんでしょう?あーもうしょうがねーわね、そろそろわたくしが直接手を下してもいいかしら……」
「お前な、自分がどんな存在かわかってるのか?」
「えーえー、十分理解してるわよ。兄であることを捨てた無責任な姉で、継ぐことをやめた無責任な元後継者で、でもなんか知らないけど血のせいで今のいままで吸血鬼に殺されない変なやつよね」
「あと、弟妹とかに手ぇ出せないように結界張ってる馬鹿最悪な術師だ」
「冗談。無意識だし、そんなつもりはないわよ。まぁ、殺すつもりもないでしょうあんたたちは」
「はぁ、なんでこんなのに使われてるのだろう俺」
「惚れた弱みよね」
「うるさい」
「ところで、あなた、仕事してるの? ヨルは領主とかできてるみたいだけど、あんた無理って言って、地主程度に管理する土地を小さくしてもらったんじゃなかったかしら?キャメリア女史に連絡するわよ?」
「はぁあ、なんでルーナ姉上とかムーン兄上とかみんな同じこと言ってくるんだろぉなぁ」
「弱点だから★」
「……そういや、お前が本当に姉になったの、マリアンヌは知らないだろう」
「ええ、他のは知ってるけどね。まぁわたくしにとって?契約が男を捨てることっていうのは、この上ない幸いだったけどね! あなたにとっても!!」
「………あっそ」
「あとね」
「ん?」
「いくらあの子煽るためっていても、浮気は駄目よ」
「…………了解」


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一瞬地獄岳が八ヶ岳に見えたわたしは、愛鷹山に埋まればいいと思います。
血はステーキを意識しました。
上物だと甘みとかあるのに、最低ランクのお肉はかみ切れないことを最近いやというほど思い知ったからです。
ちなみに、ヨルが最初にやってるのは高橋留美子作品には必ずと言っていいほど登場しているこの指→です。

海さん、素敵な企画ありがとうございました。
大変おいしげふげふ楽しませていただきました。
海さんのみフリー小説とさせていただきます。もしよろしければ、もらってやってください。
そうね、誕生日企画第一弾とさせていただきましょうか。



______________
こんな素敵小説をいただいてしまってもよかったのだろうか……!
無差別に人を襲う残酷な吸血鬼も好きですが、こんなユニークでユーモラスな吸血鬼も読んでみると面白かったです! 自分では書けないのでなかなか(遠目

フリーということで遠慮なくいただいて参りました。
もう頂き物ばかりで申し訳ない限りですよね! ありがとうございます!
Secret
(非公開コメント受付中)

いやちょ何この素敵へたれっぷり……!///

失礼しました;;つい興奮で!
ヨルさんのへたれっぷりが、無自覚やきもちっぷりが……っ!
ニヤニヤ読みましたーvv
吸血鬼企画、素晴らしいねぇ…!(感涙

へたれの最高峰を拝見した感じですよね…!
へたれ書くのが苦手な自分にとってはもう、素晴らしいのほかになにも言うことがありませぬ((

やきもちは無自覚だからこそ萌えるのだ!(爆
「企画」として受け取ってくださる方が多くて嬉しかったよ(感涙
まさかのつぶやきに反応してくださるなんて思ってなかったからね! むしろスルーされること覚悟だったりしたんだよね!(笑
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ようこそお越しくださいました (06/07)

朽葉の優等、黒檀と黒紅の交錯 (12/09)

黒檀の疑惑、朽葉の告白 (10/20)

朽葉が堕ちる、真白の行方 (10/18)

夢を見続けるこども (09/25)

プロフィール

空野海

Author:空野海
since:2009.3.21
生誕:2月14日

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