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きえないでほしいと願った。その手のひらのぬくもりだけは。
あたたかい、なにものにも代えがたいそのやさしさだけは。

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箱庭にて、幻聴の少年は悦い声で啼く。
耳障りなさえずりだった。

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黒紅の誘惑、朽葉の虚偽
 好きになった子がタイプかな。我ながら、自分の発言に嘲笑した。幾人にも同じことを聞かれ、同じことを返してきた。オーソドックスで敵をつくらない、ずるい返答だ。そう答えれば、余計な詮索をされないで済む。ひとをまともに愛せない異常者の、世の中とうまく付き合っていくための処世術ともいえる。
 色香をただよわせ、身を乗りだしてくる少女と視線をあわせた。こういうのを、俗に「あざとい」というのだろう。自分が変わった性癖の持ち主だから客観的に、冷静な理性で見ることができているけれど、まともな男だったら一瞬で陥落してしまうに違いない。あざといとわかっているのに、落ちてしまう。男の悲しい性だ。
 床に手をつき、乗りだしてきたことで女性的な身体のラインが強調される。露出は控えているものの、座っていればさほど意味のないそれに、真也は小さく笑う。上手に受けとめて咀嚼する術を、自分は知らない。このみずみずしい果実にかぶりつくだけの欲がないことが、こんなにも惜しいと思うなんて。
「ガード固いなあ……」
 ええーっ、と不満そうな声をあげてから、ぽつりつぶやく。聞こえないわけではない、しかしはっきり聞こえるわけでもない絶妙な大きさ。これもまた、慣れているのかもしれない。本当に器用だ。そして、自分の武器をよくわかっている。
 乗るべきか、反るべきか。どちらでも面白そうだけれど、場合によっては……と行きつく先を想像して、自分でも驚くくらい自然な笑みがこぼれる。いまの笑みはつくったものではない。それは己が誰よりも理解していることだ。同時に、そういった考えでしか心の底から笑うことができない自分に自嘲した。
 性癖については、数年前にあきらめと許容を覚えた。切っても切れないもの、受け入れるしか方法がないもの。精神病も疑ったけれど、はたして治ることなのか考えても答えが出なくて。結果、性癖も桐生真也の一部にして、楽しく生きることを選んだのだ。後悔をしたことはそれ以来ないけれど、ごくたまにまともでいたかったと思わなくもない。――もう、叶わない夢物語。
「それじゃあ、あたしのことは、どうですか?」
 こてん、と小首がかしげられて、なんと愛らしいことか。口元にえがいた微笑みを絶やさず、そうだなあと考えるそぶりをしてみせる。
「……僕にはもったいないかな?」
 こんなに素敵なのに、僕が摘みとってしまうのは許されない気がするんだよ。
 サワーのグラスに手をそえながら、まなじりをさげて儚げに笑う。君は美しいと、全身で叫ぶ。艶やかな黒紅に耳元から指をすべらせ、誘うようにゆっくりと。
「悪い男だからね、僕は。……いい子は、引っかかってはいけないよ」
 指先で頬をなぞる。グラスによって冷えられた手をくちびるに寄せて、しい、と片目をつむった。
Twitter創作うちよそ「それが僕らの愛だから」より。前:朽ちゆくきみを求めて、夜闇は這う
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空野海

Author:空野海
since:2009.3.21
生誕:2月14日

創作倉庫を兼ねる個人ブログサイト。
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