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星を喰したくちびるは絶対的な命令を下す
 きしう、と舌っ足らずな発音を繰り返す彼女は、実に楽しそうである。言葉を理解しない彼女に、簡単な単語を飽くことなく何度も教えてきたが、それなのに覚えたのはキスのただひとつ。いまだ聞き取れないその単語は、彼女なりに「キス」と上手く発しているつもりらしい。きしう、言うたびに得意げになるのがその証拠だ。
 ルイはその都度、褒めてやる。褒めて育てよとはよく言ったものだ。しかし、いまでもコルセットやローブ・ア・ラ・フランセーズは嫌悪が勝るのか、最近では空気を察知して一足先に逃げるようになった。使用人が疲弊しながら追いかけまわしている姿をよく見るが、彼女はそれをも楽しんでいる節がある。近々、叱らなければならない案件だ。
「きしう!」
 肘をつき、兵法の書物を読んでいたところに背中への衝撃。ドン、と力強く体当たりをされ、眉をしかめながら振り向けば、ディアナはにこにこと笑いながら手を伸ばしていた。キスして、ということなのだろう。彼女は遊びの一環だと思っているに違いない行為は、愛情表現のひとつであることを教えてあげねばならない。
 いつか手放す存在なのだ。ひとりで放りだされても生きていけるだけの立ち回りと振る舞いを身につけさせなければ。ルイは自分でも信じられないほど、焦っていることに気づいていた。ここまで手のかかる少女が初めてだったからだ。
 なにが面白いのか、幾度となくついばむキスをしてくる少女を観察する。幼い顔立ち、やせ細った身体は多少、肉がついてきたものの、触れば折れてしまいそうで。コルセットで締めあげたら、それこそぽきりとくずおれてしまいそうな。
 小さな手をつかむ。びくり肩を震わせた少女は、ためらいがちに見あげてきた。顔を近づけたところで、カランカランと呼び鈴が鳴る。ため息を吐いて、扉に音もなく立った使用人をみやると、静かに声が紡がれた。
「フェリクス様がご到着された模様です」
「ずいぶんとはやい到着だな。兄上はなにか言っているか」
「すぐお休みになりたいと申しております。また、侍従も何人までだったら許してくれるかと」
「……兄上の常識に任せると伝えてくれ。部屋は客間に案内し、夕方にディナーがてら話をしようと伝えておいてくれるか」
「かしこまりました」
 一礼し、無音で去っていく使用人を見届ける。くいっと袖を引っ張られたことで、そういえばディアナがまだいたことを思いだした。かんばせは不機嫌に歪められていて、あやすように頭を撫でてやる。
 しかし、予想以上にはやい兄の到着だ。夕方からで兄は了承してくれるだろうが、問題はこの少女に兄の前できちんとした振る舞いができるかどうか。兄も変わった人物ゆえ、粗相の悪さは気にもとめないことはわかっている。ただ、淑女としての最低限のマナーはできてもらわねば困るのだ。
「さあ、ディアナ。逃げることは許さないよ。今回ばかりは僕のいうことを聞いてくれないか」
 手を二度、打ち鳴らす。すると数人の侍女が召し物をもって、湯浴みの支度をはじめた。あくまでもやさしく、紳士的に告げながら、声音には強い命令の意思をこめる。眼下に、震える少女が映った。
Twitter企画「鳥と鳥籠」より。前回:教えてパニエ
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枯葉に濡れる瞳の色は
「真也さん」
 みずみずしい果実がごとり、落ちた音がした。そんなふうに呼ぶ人物がこの場にいただろうかと内心、首をかしげて、ほんのり頬を染めた女性とは別方向から聞こえた声の主をみやる。
 驚いた、というのが素直な感想だ。触れるか触れないかの絶妙な距離感を保ったまま、見知った少女は赤らめた顔でこちらを見あげている。整った輪郭をふちどる漆黒の糸は、店内の橙色のライトに照らされて艶めかしい雰囲気をかもしだしていて。
「真也さん、あたしともお話しましょ」
 にこりときれいすぎる笑みを浮かべ、サワーをつかんでいた手に彼女の手が重ねられる。視界の端で唇を噛みしめ、こちらを睨む紅色と目が合う。さっと目をそらされたものの、瞳にあからさまな羨望がにじんでいたことを捉えた。
 実際、彼女はいわゆるモテる部類に入るのだろう。先ほどの笑顔など、弟に爪の垢でも煎じて飲ませてあげたいくらいには完璧なものだった。自分も笑顔はずいぶんと自然にできるほうだと思っていたけれど、彼女の笑顔は自分の比ではない。慣れているのだ。そういったよそいきの顔をつくることに。
 もしかして、と。脳裏によぎった考えにかぶりを振って、そんなことはないだろうと青藍を覗きこんだ。
「もちろんだよ。でも、いいの? さっきまで別の子と話していなかった?」
「そうだけど、話がひと段落したんです。あたし、初めての人と話すのちょっとだけ苦手で。真也さんなら知り合いだし、息抜きになるかなって。だから真也さんも、息抜きだと思って付き合ってくれませんか」
「なるほどね。その気持ちはわからなくもないかな。僕、すごくアウェイだしね。話しかけられなければ、ただ食事していようと思っていたから」
「なに言ってるんですか、真也さんを狙ってる子だっているんですからね!」
 ちらり、彼女の視線が反対側に向けられる。それが先ほどまで話していた女性に対してだと認識するのに、時間はかからなかった。つまりは、牽制だ。
 不満げに唇をとがらせている女性にまたあとでねと微笑んで、近くの男子学生に誘導する。様子をみるに相当、酔っているようだったから、あとでなんてないだろう。こちらの話が落ちついたころに戻ったとしても、彼女はつぶれているに違いない。
「さあ、なんの話をしようか」
 きらきらと輝く星空を目にいれて、悠然と微笑んだ。
Twitter創作うちよそ「それが僕らの愛だから」より。前:木の葉は夜空に舞い降りて
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空野海

Author:空野海
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生誕:2月14日

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