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星を下したくちびるが遊戯と紅を彩った
 その知らせは、突然届いた。
 バタバタとせわしなくなる屋敷。それは彼女が飼われてから、たった数日のことだった。動きまわる周囲に気圧されたのか、彼女は部屋の椅子に縮こまって座ったまま、びくびくと肩を震わせている。愛らしいことだ。時たま、窓の外を見てはうずうずと身体を揺らすのだが、もしかして遊びたいのだろうか。しかし、部屋を見渡して、自分がソファに腰かけていることを確認すると、目に見てわかるくらいがっくりと肩を落としてとぼとぼと戻ってくる。
 別に監禁しているわけではない。彼女からしたら監獄に等しいのかもしれないが、出たければいくらでも出すつもりだ。ただ、そうするには彼女が一般常識と最低限の道徳を身につけていなければならない。どこに嫁がせても恥とならないよう育てあげることを、ルイは至上の喜びとしていた。
「かわいい小鳥さん、今日はきちんとローブ・ア・ラ・フランセーズを着てもらわないといけない。わがままはきかないよ」
 いまだ言葉を理解できない幼鳥は、それでもローブ・ア・ラ・フランセーズという発音が自分の嫌う洋服のことだとわかるらしく、ぶんぶんと思いきり首を振った。椅子で小さくなったまま、潤ませたノワールを向けてくる。ほだされそうになる自分の心に鞭を打って、白い手袋でまるい頬紅をふちどった。
「ごめんね、少しだけでいいから我慢してくれないだろうか。僕の二番目の兄上が来訪するんだ。粗相のないようにしなければならないからね。君も、巣立つまではヴィルトール家の淑女なのだから」
 言われていることがわからないはずなのに、むすっと押し黙り、ぴょんと椅子から飛び降りる。小さな足が大理石を踏みしめ、目の前までくるとぎゅっと胸元を握られて、くいくいと引っ張られた。そうして顔を近づけ、ちゅっとくちびるにキスをしていく。彼女はいまだに遊びの一環だと思っているらしい行為は、定期的に続けられている。
 出会ったころより血の気の通った幼子のかんばせは、薄紅に染まり、なんともあどけなく誘っている。花のつぼみを彷彿とさせるくちびるは開かれ、湿った雫がシャンデリアの光を伴って美しくきらめく。ああ、やはり、君はシャンデリアの下にいるときがもっとも輝く。
 はやく、と急かすように先ほどより強く引かれる。いけない子だね、とささやいて、歓喜に打ち震えた身体を包みこんで、薔薇にそっとキスをした。
 次男の来訪まで、あと数時間。
Twitter企画「鳥と鳥籠」より。前回:本能
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朽葉は枯葉になりえるか
「あ、桐生さーん! こっちです!」
 スマートフォンを片手に、何度か通った繁華街を歩いていくと、しばらくして声をかけられる。手をあげて誘導している彼女を見つけ、待たせちゃったかなと微笑んだ。
「いいえ、今日は来てくださってありがとうございます。人数合わせのため、なんて失礼かなって思ったんですけど……」
「僕はかまわないよ。それに、こういう場に来るのは久しぶりだからね、楽しもうと思って」
「ならよかったです。女の子のレベルは高いので! 私が保証しますよ」
「はは、さらに楽しみだね」
 顔の半分ほど低い位置にある漆黒は、初めに出会ったときと同じく艶めいていた。視線を下へずらすと、大胆にも肩を出したワンピース。男女の集う場なのだから露出は当然であるが、過度な露出ではないあたり、男とはなんたるかをわかっている。狙った露出を男は嫌う。控えめに、かつ色っぽく、自分をどう魅せればいいのか彼女はわかっているのだ。
 ここですと示された店に並んで入っていく。店員の案内についていきながら軽くあたりを見回せば、なるほど、ここが合コンに使われる流行りの店だということはすぐに理解できた。運ばれている料理や内装が女性向けにつくられていて、自然体でいられる。人数合わせなのだ、自分は気楽に楽しもう。
 男女で向きあうように座り、それではと意気揚々と始まりの乾杯が掲げられる。女性を吟味する、というと聞こえは悪いが、ざっと顔をみやった。彼女のいうように、みんなかわいい。サワーを飲みながらみていたら、端から自己紹介をしていく恒例行事がはじまる。自分から一番遠い席に座っていた青年がさわやかに名乗りだし、順番が回っていく。自分以外は大学生のようだ。思えば、彼女が主催した合コンなのだから、全員が学生であっても不思議ではない。
「最後! 桐生さん、気張ってどうぞ!」
「そのフリは紹介しづらくなるなあ。……初めまして、若い学生たちのなか、ひとりだけ社会人です。桐生真也っていいます、気軽に話しかけてもらえると嬉しいなあと」
 社会人、という言葉に羨望があるのか憧れなのか、各ほうぼうから声があがる。大層な職種に就いているわけでもないから、すごいですねなんて言われても曖昧に笑ってごまかすだけだ。
「桐生さんって、不思議な色に染めてるんですねえ」
 明らかに媚を交えた猫なで声。弟が聞いたらいやがるんだろうなと思いながら、指先で髪をつまむ。
「そう、意外と気に入っているんだ。染めすぎて、髪の質はとても悪いんだけどね」
「ええっ、そうなんですかあ? 触ってみてもいいですか?」
「いいものでもないと思うけど、どうぞ」
 顔は中の上、視界の片隅に映る彼女とは比べ物にならないけれど。ブラウンに染められた髪は背中までたれていて、毛先がかわいらしくくるんと巻かれている。照明によって、赤茶にみえるのはご愛嬌だろう。うまく染髪料が髪に浸透しなかったに違いない。
 そっと触られたかと思うと、なにが面白いのか手に絡ませて遊んでいる。赤みを帯びた目元、朱色に染まる頬で、ほろ酔い気分だということはわかった。ふふ、などと吐息をもらしたかと思えば、桐生さんはあと再び名を呼ばれる。
「どんなお仕事してるんですかあ?」
 問いかけと同時に、ポケットのスマートフォンが振動を伝えてきた。店に入る前にマナーモードにしておいて正解だったといえよう。ちらり、画面を確認すれば弟の文字。一言、断りをいれて内容を開けば、誘われているのに脅されているとしか思えない文章が簡単に記されていた。断ることは造作もないこと、けれどここで断ってしまえば、彼は二度と自分には会わないだろう。
 いつかは話さなければならないことだった。隠し続けてきたものが、暴かれようとしている。
 直情型の弟を愛しく思っている時期も少なからずあった。あそこまでまっすぐ生きられることが、うらやましく思っていた過去が。ならば、その気持ちに応えてあげるのが「少なくとも尊敬していた兄」のするべきこと。嫌われる覚悟も、軽蔑される不安も、とっくの昔に捨ててきた。この髪色に染めた時点で、あのころの「桐生真也」は死んだのだ。
「ごめんね、どうしても返さないといけないメールだったから。それで、僕の職業だっけ?」
 画面をとじて、目の前の女性に向きあう。にっこりと微笑んで、このときだけは一切の連絡を断ち切った。
 ――いいよ、合コンが終わってからでもいいなら家にいく。
Twitterでの創作うちよそ:「それが僕らの愛だから」より。
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空野海

Author:空野海
since:2009.3.21
生誕:2月14日

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