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ロゼ伯爵は大忙し
 ああ、これはどうしたことか。
 盛大な溜息を吐き、空をあおぎながらロゼ伯爵は頭を抱えた。
 世は社交界シーズン。ありとあらゆる場所に住む貴族という貴族が、このグロンデール王国の首都グランヴァールに集まる時期。
 グロンデール王国の中でもっとも発展しており、一度は訪れてみたい街として他国からの評価も高い。環境に恵まれていることもあってか、年を通して常春のようにあたたかく、それでいて地下水も取れるため水に困ることもない。家々が玄関の前やベランダに花を飾り、愛でているのはこのグランヴァールの特徴だった。
 毎朝、子供たちが元気よく街を走り回る。水汲みやパンを買いに行く子供で道があふれかえることもあり、それを見るたびに平和なことだとつぶやくのだ。子供の笑い声が響く街はいい街だと言われる。
 ロゼ伯爵はグランヴァールのはずれに住む、たいして目立ちもしない貴族のひとり。伯爵という大層な爵位を授かってもそれを他人に自慢することなく、静かなはずれの地でひっそりと暮らしていた。
 豪華絢爛さを苦手とする伯爵は、住んでいる屋敷も質素なことで有名だ。生活できるだけの家があればいいと、貴族なのに国民と変わらぬ家に住んでいる。屋敷だなんて言えるほど大きくはない。
 唯一の趣味といえば、薔薇くらいだろう。伯爵は薔薇を見るのも、育てるのも好きだった。亡き母と妻が愛した花だからと、家の周りから広範囲にわたって多種多様な薔薇が咲いている。薔薇のアーチをいくつもくぐると家につく。あたりに香る薔薇の匂いは、蜜蜂を寄せつける。
「陛下も、無茶なことを言いなさる」
 昨日、いきなり王宮に呼びだされたと思ったら。金の髪の美しい王は、嬉々として言い放ったのだ。
『そちに、社交界のためのガーデンを造ってほしい』
 薔薇にしか興味がない男だと思われているのならそれでもかまわないが、そんな大役を務めさせてもらえるような器ではない。しかし、王の命令は絶対。あの場で断ることができるはずもなく、ロゼ伯爵はめまいを覚えながら承諾した。
「どうしたものか」
 ガーデンなど造ったこともない。この薔薇園がガーデンだというのならいくらでも造っているが、任されたのは社交界のガーデン。薔薇だけでは貴族たちの目を楽しませることなどできない。
「いつぶりか、こんなに頭を悩ませるのは」
 社交界まで時間がない。伯爵はこれから忙しくなるぞと、つぶやいた。
お題はまほろばの春様より。
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公女ブロッサムの退屈な昼下がり
「退屈ですわ」
 ある日の昼下がり、ルロレット公爵令嬢は令嬢にあるまじき体勢でつぶやいた。テーブルに肘をつき、穏やかに流れていく辺りの空気を見つめる。
 テーブルには令嬢のために用意されたアフタヌーンティーのセット。細密に描かれた蔓と薔薇のティーポットとティーカップ。見た目も美しいこのセットは、ご令嬢のお気に入り。
 シナモンのクッキーは山盛り、きれいに八等分されているラズベリーパイやアップルパイ、特別に甘くされたカラフルなマカロン。クッキーは令嬢がこだわっている茶菓子で、他国から取り寄せたチョコレートを練りこんだもの、アールグレイの茶葉を散らせたものなど多種多様なクッキーがテーブルに鎮座している。
 見ているだけでお腹いっぱいになりそうなものたちを前にしていても、令嬢の顔は優れない。つまらなさそうに溜息を吐くだけである。
「退屈ですの」
「ブロッサムお嬢様。ルロレット公爵令嬢ともあろう方が、そのようなことを申してはなりません」
「どうして。だって平和すぎるのだもの」
「平和なのはいいことです」
 ブロッサムの脇に立つ青年は、表情を変えずにそう告げる。その答えに満足いかなかったのか、むすっと頬をふくらませて彼女は言う。
「でも、毎日こんな生活じゃ、つまらなくなって当然だわ」
「それが貴族というもの、公爵家というものですよ。爵位の中でも最高位、由緒正しき公爵家。ルロレット家は昔から貴族として格式高く、それでいて国王の右腕になる方も多く輩出しております。お嬢様の仕事は、ルロレット公爵家に恥じないご令嬢として生きることです」
「わかってるわよ、そんなこと。お父様の名前に傷はつけないように生きているつもり。……でも、街へ出かけたときにすれ違う人たちがうらやましく思うことがあるの。あんなふうに食べ歩きして、おしゃべりして、すごく楽しそうだった。私の知らない生活だった。ああいうふうに生きられたら、自由を感じるのかしら」
 ふと、空を飛ぶ鳥が目に入る。彼らも、あの大空を誰に縛られるでもなく自由に生きているのだと思うと、自分のいるこの世界がちっぽけなものに思えてしまう。あの鳥たちからすれば、この庭は箱庭と同じなのだろう。
「……公爵令嬢って、つまらないものね」
 そのつぶやきに、青年はなにも答えない。こぽぽ、と音をたてて注がれる紅茶がまるで返事であるかのようにブロッサムの耳に響いた。
お題はまほろばの春様よりお借りしました。
ガラスケースのあい
うつくしい、そのなまえ。うつくしい、そのすがた。

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空野海

Author:空野海
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生誕:2月14日

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